医学知識における《概念》は英単語学習における《対応関係》とどう違うか?

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こんにちは。今日は学習効率本の内容を医学に応用する時に生じる相違点と、それに対する仮説についてお話していきます。

まずはじめに学習効率本の中で登場した概念、について紹介します。

用語説明

学習効率本では、知識を下の3つに分類に、更には「想起度」という概念を用いて説明しています。

未知: 知らない知識
不出: 覚えたが、まだ想起度が低く、思い出そうとしても思い出せない知識
可出: 思い出せる知識

想起度: 知識の思い出しやすさ、のこと。
— 学習効率本第2巻 240p、372pより引用

今回の記事の中では、注を付けない限りカギカッコでくくった「テスト」は学習効率本で用いられたテストのことを指します。

この記事を書いた人
じょん

2024年に医学部を卒業、現在大学病院と300床程度の市中病院のたすきがけ研修を行う傍ら、研修生活をより楽しく、パワフルに送る方法を発信しています。
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想起度には閾値が存在する

学習効率本において、《閾値》、という言葉が用いられています。その閾値を超えたものは「テスト」で解答することが出来るし、超えないものは解答できない。想起度が閾値を超えた時、思い出せる=可出、となります。

例えば「りんご-Apple」というチャンク。

「テスト」の答案には「りんご-______」と書いてあり、そこに当てはまる英語、”Apple” が想起されなければ、解答することはできません。

これが学習効率本における「不出」「可出」です。(閾値を超えた場合を可出。閾値を超えず、解答できなかった場合を不出、とします)

単語帳で一度も学習しておらず、答えられなかった場合、例えば「Procrastinate-____」等の場合、そのチャンクは「未知」となります。

単語レベルではこれでも良いのですが、実際の問題に当てはめる場合には、少し問題が生じるのではないか?というのが今回の問題提起です。

この【未知】【不出】【可出】という概念を医学に応用する場合、どうなるか、ということについて考えてみます。

医学知識における【未知】と【不出】

例として、医師国家試験より108G-05の問題を紹介します。

 症例対照研究について誤っているものをA-Eの中から1つ答えよ。
A. オッズ比が計算出来る
B. 観察研究に分類される
C. 交絡因子を補正できる
D. 想起バイアスの影響を受けやすい
E. 罹患率を推計できる
— 厚生労働省 医師国家試験108G-05より。問題文は筆者が一部改定。

さて、この問題を見た時、「症例対照研究はどの様な研究方法か」ということを知っていれば解答することが出来る‥と考えますよね。

しかし選択肢を見ると、「オッズ比とはどの様な指標か」「観察研究とは何か」「交絡因子、とは何か」「想起バイアスとは何か」「罹患率の推計に必要な値は何か」という知識がなければ回答できないことに気が付きます。

次に、筆者が問題を解く時にはどれくらい理解していたのかを記載してみます。

A. オッズ比: そうである確率が、そうでない確率と比べてどれくらい高いかを表した値。
B. 観察研究: 介入研究との対比で用いられる表現で、薬剤投与や治療「介入」を行わず、患者を追跡調査して、発症率を見る、「観察」する、と言う研究のこと。
C. 交絡因子: 肺癌とタバコの関係に対する、飲酒、が交絡因子の具体例として有名である。飲酒自体は肺癌の発症には関係が無いとされているが、飲酒という状態の発生が、喫煙と関係すること。
D. 想起バイアス: 患者が昔の事を「思い出す(想起する)」時に、「あー、確かこうだったような‥」といった不確かな状態になり、思い出せた人、思い出せない人、でバイアス、正確さに差が生じる事。
E. 罹患率: ある一定の期間中の新規発症者数の事。

教科書と比較しても、そこまで自分の認識に抜けがあるようには感じません。
では、このことが問題文にある「症例対照研究」とどの様に関係しているか、ということについて考えてみます。

A: オッズ比、喫煙があるという因子がある人とない人で、どれくらい発症率が違うのか、ということは計算できるだろう、と推測。
B,D: 症例対照研究は現段階から過去にさかのぼり、患者に聞き取り調査をして行う研究である。例えば現段階で肺癌を発症している人に聞き取り調査を行い、原因に相関はあるのか、ということを調査する。何か介入を行うわけではないので観察研究に分類されるし、患者に対して聞き取り調査を行うので、想起バイアスは発生する。
C: 交絡因子に対して、例えば上であげた肺癌の例では、聞き取り調査の段階で「飲酒を行っている人」を除外することで交絡因子を除くことが出来る。
E: 「一定期間における新規発症者数」が分かれば求めることが出来るだろう。
ここまでやって、ようやく疑問が生じます。
「一定期間」は、例えば「10年前~5年前」でも良いのだろうか‥症例対照研究にも適応して良いのだろうか‥。

解答に際して必要な知識は何か?

この問題を解答するには、今までに挙げた以外に必要な知識がいくつか存在します。
例えば

症例対照研究では罹患関連指標は計算できない

という知識。そもそもこれは「知識」か?と深堀りすることもできますが、ひとまず知識、としましょう。

授業テキスト内には「罹患関連指標とは罹患率、相対危険度、寄与危険度等を指す」との補足説明があります。

ここからはこれを読み、自分が考えた内容です↓

罹患率は「無作為に選んだ集団」であるからこそ求められるのであり、最終的に発生することが目に見えている集団で測定した罹患率、というのは、それこそ選択バイアスがかかるでしょう。

同様に寄与危険度、相対危険度、という値に関しても「発症した人と発症しない人」で比較することで求められるので、最終的に発症する人で測定した寄与危険度・相対危険度に信頼性がおけないことは分かるだろう。

暴露があることによる危険性、を評価することは出来ない、が、近似することが出来る。※ ただし、発生割合が低い時限定。」と教科書に書いてあった。

 

ここまでやって、「確かに、症例対照研究は罹患関連指標の計算ができなさそうだな」と「感じ」ます。

そして、「症例対照研究で罹患率を推定することはできない、Eが誤りだ」、と解答できるのです。

英語学習と医学学習の差はどこにある? 単語か、概念か。

この学習は、は最初に取り上げた「りんご-Apple」の学習とは少し違って見えます。

英語学習に於いての「勉強」とは、「りんご」と言う単語の横に「Apple」と書いてあるのを見て、これが対応するのだな、というもの。

一方医学学習に於いての「勉強」とは、上記の「罹患率は『無作為に選んだ集団』~~わかります。」の部分を指します。

そのため、

英語と医学では勉強の質が異なる。英単語では『この日本語はこの英語』という対応関係を勉強し、医学では『この言葉が表すものは《なんとなくこんな感じ》だ』を勉強する、とういことです。その点で、単語学習と医学学習は異なる

という仮説を立てました。[^2]。以下、《なんとなくこんな感じ》を《概念》と表現します。

「暗記」「テスト」に関しては、医学と英語では似たものを準備することが出来るので、学習効率本で紹介されていた考えを流用することが出来るだろうと考えます[^3]。

《概念》の学習方法や、それを行う時の学習効率に関しては今後も考えていきます。この部分を突き詰めれば、医学分野での「Anki活用法」が見えてくるのだろうな、と感じています。

今日はここまで。

日記みたいな感じで書いていますが、人に伝える、となると言葉を追記する必要があります。パないです(これでも全然追加し足りない‥気がする😖😖😖)

 

[^2]: 公衆衛生の中でも、特に概念を聞く様な部分だからこそ、学習効率本の考えをそのまま応用できない、ということが考えられます。部分的には英単語の暗記の様な学習も医学には存在します(例えば、「肘関節を折りたたむ動き=肘関節の屈曲」「肘関節を広げる動き=肘関節の進展」等。)

[^3]: ここでの「テスト」とは国家試験の問題を解くことではありません。自分が学習した《概念》や単語に関してだけを問うような1問1答形式もしくは部分的には選択問題を準備し、それを解くことを指しています。

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